内科医 末光 智子
今から5年ほど前、私はとある予防医学のセミナーを受講することを決めました。COVID‑19が世間を騒がし始める前、その頃から私には漠然とした不安感があったからです。
年々私の治療院には、子ども達とそのママからの相談が増え続け、田舎に暮らす子どもだからと言って、「みんな、のびのびおおらかに」と言うわけでもないという感覚が強まっていたのです。
そこで、ただ治療院を構えて治療を重ねるだけでは、何か片手落ちのように思い始めました。
それまで所属する療術会の研修を受けたり、自分でも講師を務めたりしていたのですが、もっと、今までより広い視野で健康を見ていかなくてはと思ったのです。
現役医師が教えてくれるそのセミナーは、今まで受けていた研修とは違い、色んなジャンルのスペシャリストが参加していて、受講生の中にも医療関係者が幾人かいました。
その時、今までの研修会とは全く違う雰囲気のセミナーの中で、自分の立ち位置すらわからず不安に感じていたのを覚えています。
しかし、「予防医学」をテーマにしたそのセミナーの冒頭で、講師の現役医師が話してくれたのはこんなことでした。
「予防医学を広めるには、医療関係者より、むしろ暮らしに近いところで健康に携わっている皆さんの力が必要なのです。」
そこで、一気に不安は消え去り、不安は「よし、やるぞ」という勇気に変わりました。そのひと言が大きく私の背中を押してくれたのです。
それから翌年にも開かれたそのセミナーを再受講し、そこでお会いしたのが今回対談させていただくママ内科医の末光智子先生です。
(文・佐藤 勝美)
暮らしの中で患者さんを診る
そのセミナーの中の自己紹介で、子ども達への思いを語る智子先生に私は声をかけずにはいられませんでした。立場は違えど、何か共有できるものを感じたのです。それからのご縁で智子先生とは時々情報交換をさせてもらっています。
智子先生は愛媛の松山で生まれ育ち、栃木の自治医科大学で地域医療を学んだ後、地元愛媛に戻って、9年間地域医療に従事され、プライマリ・ケア(Primary care)、かかりつけ医として最初の見立てをする役割を担っていました。
そして地域医療最後の2年間は、山奥の診療所で高齢者を中心に診ながらも、村の数少ない子ども達の学校医もされ、地域全体を暮らしの中で患者さんを診ていたそうです。
総合診療=プライマリ・ケア
患者さんを多角的に診ること
家族や生活背景まで診ること
地域全体を診ること
引用:日本プライマリ・ケア連合学会
現在は、どのようにして子ども達のココロとカラダを元気に育てていけばいいのか、ご自身も子育てをしながら試行錯誤して学んでいるところだそうです。
今回の対談を前に私は、2年前に智子先生が出版された書籍「すこやかで幸せな自分であるために 〜ココロとカラダを調える〜」を読み返してみました。
その内容は、智子先生の経験に基づく言葉だからこそ響くもので、「Club おなかにてあて」の会員さんにもぜひ、読んでもらいたいなと思ったので、この本を開きながら対談を進めていくことにしました。
「すこやかさ」は「幸せ」の土台
対談の初めに、本のタイトルにある「すこやか」と言う言葉について、智子先生に聞いてみました。
智子先生のイメージする「すこやか」とは
病気でないだけではなく、
ココロもカラダも、
のびのびとおおらかに、
やわらかくあたたかい、
調和した状態
そんな言葉のイメージがあるそうです。
ただ「すこやか」ということは土台であり、
大事ではあるけど、そのために生きているわけではなく、
「すこやか」を土台に、一人ひとりが人生を「幸せ」に生きていくことが一番大事かなと思うんですよね。
そして、「すこやか」であれば、自然と「幸せ」に向かっていくのかなとも感じます。
そんな思いで、本のタイトルを「すこやかで幸せな自分であるために」とつけたと話してくれました。
子ども達もストレスや不調を感じている
「すこやか」とは反対に、現代の子ども達の不調についても話をしてみました。
私の治療院では、ここ数年子ども達からの相談が増えていて、例えば
- 10〜15歳の女の子から、頭痛や生理痛、感情のコントロール
- 男女問わずスポーツをしている子ども達から、オーバートレーニングが疑われる、剥離骨折、オスグッド、腰椎分離症などのけが
などが特徴的です。
もしかしたら、成長期の身体の変化が最も大きい時期に、成長に使うエネルギーを奪ってしまうほど大きなストレスを受けているのかもしれません。
痛みやけがについては専門医に任せたいところですが、実際には症状だけしか診てもらえず、原因となるライフスタイルやトレーニングスタイルなど、智子先生が続けてきた「暮らしの中で患者さんを診る」という視点が欠けているために、色々と回った後、私のところにご相談にくるケースが止まないのです。
智子先生は、横浜に来る前に産業医をしていた学校の健康診断で3年間子ども達を診ていた時に、現代の10代にあまりに不調が多いのに驚愕したそうです。
例えば、
- 疲れやすい
- 頭痛
- 生理痛
- 食欲がない
など、検査をしても特に異常はなく病名がつくほどでもない、あえてつけるとすれば自律神経失調症といった括りでしか言えないような不調が増えていた実感があったそうです。
智子先生自身がそもそも本を書いたきっかけが、20代30代の頃、地域医療に従事して激務をこなしていた頃に、心身の不調を抱えていたことだそうです。
そして不調から、疲れやすいとか寝られない状態になり心療内科に通われていたことがあったそうです。
しかし、結局心療内科のお薬ではよくならずに、丁寧に生活習慣を変えたりして根本的に良くなってきたので、今の10代の若い方達の不調を見ていると、智子先生がどん底だった頃の前触れのように感じるそうです。
本当だったらエネルギーがあり余っている時期に、すでにココロもカラダもエネルギー不足になっていて、10代でこんなにエネルギー不足になっていたら20代になって社会でさらにストレスがかかってやっていけるのか、心配だと話してくれました。
ココロとカラダが調い、夢が叶う
智子先生のその頃の不調の一つに重度の生理不順があったそうです。
そして、幼い頃からお母さんになることが夢だった智子先生は、自分は不妊体質だろうとほぼ諦めかけていたそうです。
しかし、丁寧にココロとカラダを調えていくと、30代後半に自然妊娠され、出産もスムーズで、お子さんも元気に育っておられるそうです。
さらに、あんなにひどかった自分の身体がこんなにも、まだ回復できる余地があったのかと、その回復する力がそもそもあったということに感動したそうです。
私がサポートしているクライアントさんも、人生のどこかでバランスを崩してしまい、ココロとカラダが不安定になってしまった方ばかりです。
私は自分の身体が回復する力に感動した智子先生のご本を、その方々に読んでもらえたらなと思います。
あれができたから、きっと大丈夫
不調から、丁寧にココロとカラダを調えて、夢を叶えた智子先生の言葉からは命への信頼が伝わりました。ゆっくりと浮き沈みがありながらも、
あれができたから、きっと大丈夫、
自分は大丈夫に違いない。
自分の中にある力強さを信じられる。
そう感じながら、きっと良くなれるという、自分の中に回復力があると信じられるようになったそうです。
しかし、若い人の中には幼少期からなんとなく不調が続いていると、信じられないかもしれない。
外から、自分の中にある力強さを信じてと言っても、実感として感じられることがなく、信じ切れずなおさら不調が増長してしまう。
とも、智子先生はおっしゃいました。
ココロと色んなことのかけ合わせ
そこで智子先生からココロとの向き合い方について聞いてみました。
自分の力だけでは立ち上がるのは難しくても、
色んなことを掛け合わせた、振り返ってみて立ち上がるためにはこれが必要だったかなということをまとめた。
生き延びていったら必ず何かが変わってくるから
それを繰り返し言ってくださった方がいた。
当時は生きること自体がしんどかったので、それでも言い続けてくれた。
小さな進歩、変化を大切にする
あきらめない、信じる、
そして、小さな進歩を、変化を大切にする
小さな変化を積み重ねている時期は、何も変化していないように感じてしまうけど、振り返った時には全然違うところに来ているなと感じる。
自分一人では信じることができなくても、経験している人に「大丈夫だよ」とサポートしてもらうことが大事。
そして、何かすごいことをしないと考えるより、自分の身体一つでできることもたくさんあるので、小さいことを続けることが大事。
自分の中の小さな変化を、必ず変わってくるので、信じきれなくてもいいので、だれかが応援してくれるなら本当かもしれないぐらいの気持ちでもいいので、何かちょっずつやってみてくださいと、智子先生は最後に話してくれました。
先生の本を読むとね、大丈夫と思えてくる、私自身が勇気をもらいました。
5年前に受けたセミナーで学び意識し始めた、予防医学という考え方がオンラインサロンを作ろうという発想につながり、今こうして、ママ内科医の智子先生の言葉をみなさんに伝えることができました。
5年前には見えなかったけど、小さな小さな変化の積み重ねが、今少しずつ地域医療を補完する役割をカタチにしてくれています。