身体均整師 小柳 弐魄
日本には「てあて」を意味する色んな呼び名があります。
例えば、私は職業を聞かれた時に、てあてをする人という意味で「私は徒手療法家です。」と答えます。
しかし、日本に古くからある療術の世界では、むしろ手技療法と呼ぶことのほうが多いかもしれません。
今月の特集は日本の代表的な手技療法、身体均整法を通して社会貢献を続ける身体均整師会の会長、小柳弐魄(にはく)先生との対談動画をお届けします。
ひょうひょうとした中に鋭い観察力を隠している。
そんな雰囲気の弐魄先生から、身体均整法や東洋医学の視点で、からだを診るヒントを話していただきました。
(文・佐藤 勝美)
家庭の中で「診る」ヒント
身体均整法には、姿勢やからだの表面から触れるものから、その人の体質やその時の体調を読み取る理論と技術があります。
普段は主にプロフェッショナルに向けて発信することの多い弐魄先生ですが、「Club おなかにてあて」を見てくださる一般の方に向けて、家庭の中で「診る」ヒントをお話ししていただきました。
東洋医学での「診る」と身体均整法が発達させた「望診」
東洋医学では、患者の調子を読み取る観点を四つに分類しました。四診には、上から「神技」「聖技」「工技」「巧技」と分類があります。
- 望診 望んで之を知るを神と謂う。
- 聞診 聞いて之を知るを聖と謂う。
- 問診 問うて之を知るを工と謂う。
- 切診 切して之を知るを巧と謂う。
と、こう伝えられています。
望は、「見る」と言うことです。「姿勢」「歩き方」などを望診に含める人もいますが、基本的には違います。人の「気配」、顔や皮膚上に現れた「血色」を以て判断するものとされています。
聞は、相手の「声色」「声勢」であり、あとは「匂いを嗅ぐ」ことも含まれます。体臭、口臭などから内臓の具合も見えてきますし、声の加減で気力の虚弱を見ることは、みんな日常的に行っていることと思います。
問は、西洋医学の医者でも行う「問診」ですね。色々と尋ね聞いて判断していきます。
切は、「触れる」ことです。主に「脈診」「腹診」「背診」で、脈状はもちろん、おなかや背中のコリ、弱さ、冷え、熱などを手で感知していく方法です。
このうち、神技である「望診」を発達させてきたのが日本発祥の伝統手技療法「身体均整法」です。
先ずは、しっかりと見ておく
では、プロフェッショナルの世界で神技とも言われる「見る」と言うことを、一般の家庭の中でどう活かしたら良いのでしょうか。特に親御さんがお子さんを見るヒントについて聞いてみました。
先ずは、普段お子さんをしっかり見ておくことが大切で、何かが起こった時に「いつもと違うな」と気づいてあげることが重要だと弐魄先生は言います。
例えば表情だとか、動きの巧みさ拙さだとか、そういったところをしっかりと見ておいてあげることが必要だと話してくれました。
プロフェッショナルの世界でも、解剖学や生理学の正常な状態をよく知っていないと異常な構造や機能には気づけないのと同じなのです。
「切診」、子どもは触ることが大切
そしてもう一つ「触れる」こと、「切診」です。
弐魄先生は、ご家庭では触って確認することが非常に重要だと言います。
触って何がわかるとかではなくて、普段から触ってあげることによって、「いつもと違うぞ」ということに気がつくことが大切です。
子どもは成長段階で、親御さんから触れてもらって、触れてもらった感覚を持って成長していくので、何かを見るとか、何かを確認するとか、何かを判断する以前に触れる習慣が大切だと話してくれました。
視覚や聴覚の発達が十分でない新生児期においては、触刺激の発達に対する重要性は、Harlow(米、1958)による猿の実験で明らかにされた。生後まもない仔ザルを母親から離し、金網と毛布の模型を与えると、仔ザルは好んで毛布の模型にまとわりつく。また金網の模型しか与えられなかった仔ザルは、成長してから他のサルを恐るなど正常な社会生活ができなくなったという。
鈴木郁子「やさしい自律神経生理学」,中外医学社,2015年8月,230ページ
医療、社会、そして暮らし
「医療モデル」は、主として病院や診療所での、患者を中心とした疾病の治療が目的のシステムです。
一方、「社会モデル」は、主として日常の生活の場での、生活者を中心とした疾病予防や健康増進が目的のシステムです。
そしてオンラインサロン「Club おなかにてあて」は、社会の中でシステムと言うよりは一人ひとりの暮らしにフォーカスした「生活モデル」として健康をサポートしています。
オンラインサロン「Club おなかにてあて」は、元々私が均整法を学び始め、その後人口3,000人余りの群馬県北部の村で13年ほど前に勝美身体均整院(現 勝美内臓調整療法院)を独立開業したことからそのストーリーが始まっています。
そして今より5年くらい前から、治療に限らず運動療法や予防医学をベースとしたライフヘルスコーチングにも力を入れ始め、そこからオンラインサロン立ち上げの構想に至ったのです。
現在日本は現役世代2人で65歳以上の高齢者1人を支える超高齢化社会で、2050年には1.2人で1人を支えなくてはいけないと予想される避けられない未来が待っています。そして、私が暮らすような過疎の村ではその割合はさらに深刻です。
そんな状況の中で単に来院者を増やすだけのビジョンを掲げていても、地域社会の健康を本当の意味で支える役割を担っていけないと考えたのがその理由です。
大きく社会が変わろうとしている今は、奇しくも身体均整法創始者、亀井進師範が、まだ戦後の混乱がさめやらぬ時期に特技や特効に固執して足元のふらついている療術ではなく、人類の保健衛生に意味のある真の療術を目指し身体均整法を確立した頃と重なって見えます。
今回は、均整法が取り組んでいる社会モデル、「Club おなかにてあて」が寄り添っている生活モデル、そして医療モデルへの架け橋としてのそれぞれの役割をセッションしてみました。
オンラインサロン「Club おなかにてあて」は、医療と社会、この二つのシステムのどちらかに偏ることなく互いに補完し合い、一人ひとりの暮らしという「生活モデル」に落とし込める、つながりを活かしたパーソナルサポートを目指しています。
身体均整法とは
身体均整法では姿勢や体型を観察することを大切にしていて、特にそれらをまとめて「12種体型学」と呼んでいます。
身体均整法は1951(昭和26)年より今日まで続く日本の代表的な手技療法です。戦後の療術法制化運動の渦中で手技療法の科学化を牽引した亀井進が、当時の主だった徒手的アプローチ方法(武術や整体、漢方、療術の体観や体読、さらにはオステオパシー、スポンデロテラピー、カイロプラクティックなど)を採集し、独自の理論のもとに大成しました。
在来の手技療法の枠を超えて、美容や能力開発、独自の体操設計・健康法の開発など多方面に及び、その網羅性から多くの分野でいまも多彩な人材が活躍しています。
局所から全体へ、身体の表層から深層へ、人間の身体運動を深く掘り下げることによって、それぞれの技術の長所と短所をうまく組み合わせ、あらたな技術へと高めて参りました。
関節に注目しただけでも、動きを作り出す「駆動システム」、これを支える「支持システム」、それらを安定的に維持する「平衡システム」が備わっていますが、すべてが協調してはじめて円滑な身体運動が成り立ちます。 身体均整法では、それぞれを可動性、強弱性、平衡性と位置付け、身体の三大原則と捉えています。
加えて、姿勢や体型に注目してそれを12種類に分類した「12種体型学」も特徴的です。
これからの療術、均整法のあり方
今回の対談の後、弐魄先生からこれからの療術、これからの均整法について聞かせてもらいました。
コロナ禍の低迷が過ぎて、内需主導の緩やかな回復が期待されている2023年の日本経済ですが、海外景気の悪化で国内経済成長は減速するのではという見方もあります。
われわれ身体均整師も療術業者という意味で、医療が社会モデルにシフトしてゆく現状では成長産業に違いありません。しかしこれも裏を返せば、新規に参入してくる競合他社が増加傾向にあるという意味でもあります。
この前提を踏まえてこれからの身体均整師の仕事を考えると、結局、トレースすべき正解があるわけでも、裏技的な抜け道があるわけでもないということがわかります。大きく揺れる時代の波に対応するしなやかさと、翻弄されないためのブレない軸が必要です。
問われるべきは一人ひとりの生き方であり、強みであり、中核となるあなたの価値観です。そこにブレない仕事のやり方があるわけです。身体均整法の大きすぎる応用可能性はまさにそこを活かすためにあるわけです。
改めて自分のやりたいことを振り返ってみると難しいかもしれませんが、とりもなおさず働き方は自由だということです。
このお話を聞いて、私が弐魄先生に対談をお願いしたいと思った理由が後からはっきりと見えてきました。
歴史ある療術、均整法を継承しながらも、これからの社会や暮らしまで見通せる柔軟性を持っている弐魄先生に、私は大いに共感しているのです。
そして、このオンラインサロンを始める少し前に弐魄先生とお話しした時に、「表現し続けたものだけが生き残れる。」というお言葉を頂いたことがあります。
その言葉が、私がオンラインサロンを始める後押しのひとつになったことを思い出しました。