発達障害の専門家 新井 清義

私は、昨年の8月に「発達障害とは?」というテーマで、
発達障害の基礎知識や、そもそも障害とは何かについて
記事を書かせていただきました。

発達障害を切り口にすれば、
私が伝えたいことが伝わりやすいと思ったからです。

発達障害という用語は、かなり世の中に広まってきた言葉ですが、
言葉だけ先行してその本質が浸透せず、
まだまだ誤解も多いというのが現状です。

様々な捉え方や定義はありますが、
発達障害は脳機能の発達の偏りによって生じる
独特な認知や行動によって、
発達過程のどこかで困り感や不適合が起こるというのが本質です。

しかし発達障害を、
発達しないとか、発達が阻害されるというように、
誤って解釈されてしまうことが多いのです。

発達障害とは、
「発達」と「障害」と言う二つの言葉が
重なってできています。 

発達障害の「発達」という用語は、
発達するに従って、年齢が上がっていくにつれて、
という意味合いです。

つまり、その人が生活する空間が広がっていけばいくほど
明らかになるのが発達障害なのです。

「障害」とは、その人が持っている特性だけの問題ではなく、
環境との相互作用によって起こります。

その点に重きを置いて、
近年障害の捉え方が変わってきました。

そして、そのキーワードがインクルーシブという言葉です。

今回は、インクルーシブという言葉を知らない方のために、
「インクルーシブコミュニティとは?」というテーマで、
お話してみようと思います。

国際的な障害観の変化

近年、障害者の権利に関する条約の制定や障害者差別解消法の施行をはじめとした動きにより、「障害」に対する大きな取り組みが行われています。これらの背景には国際的な障害観の変化があり、障害とどう関わり支援していくか、ということが盛んに議論されてきました。

その大きいな流れの一つとして、ICF(International Classification of Functioning: 国際機能分類)の採択があります。ICFは、2001年に世界保健機関で採択されました。ICFでは、障害の定義を活動や参加の制限であるとしています。

例えば、発達性ディスレクシア(限局性学習症の一つで、読字に関する障害)は文字を音に変換することが苦手なため、読字を正確に行うことや流暢に行うことが困難です。この場合、「読むことが困難」であることそのものが障害ということよりも、「“読む”という行為で情報を得ることが困難」な状況や状態を、活動や参加に制限されている、つまり「障害」がある状況として捉えています。

ICFが生まれた背景を理解するためには、ICFが採択される約20年前に作られたICIDH(国際障害分類)を知らなければなりません。

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この記事を書いた人

発達障害の専門家

あらい すみよし

新井 清義